香港学習塾 epis Education Centre

わかば深圳教室 教室長ブログ

教室長末木千尋

2011年12月に香港へ赴任。旧九龍教室、わかば深圳教室とで合計6年間勤務をし、2017年から再び深圳へ。きめ細やかなサポートには定評があり、時間が経つのも忘れついつい話し込んでしまうことも。本気で立ち向かう生徒の守護神として頼れるアネゴ的存在であるスエキチ先生は、衣食住どれをとっても刺激の絶えないここ深圳での生活がお気に入り。暑さには弱いが辛さには強い。好物は山椒のたっぷり入った激辛料理全般だとか。

埼玉大学STEM教育研究センターSTEMキャンプ in 深圳

ワークショップで使う材料。限られた材料で課題をクリアする。

2002年からものづくり活動を通した教育を初めている埼玉大学STEM教育研究センターが夏の国際STEMキャンプと銘打って2019年8月に香港・深圳を訪れ、わかば深圳教室ではSTEMワークショップ、顔認証技術・自動運転技術で知られるAI企業センスタイム社訪問、深圳の夜を彩るLEDマッピングショーの見学のお手伝いをしました。

同センターのワークショップは2002年から長年の教育の蓄積があるだけに非常に学びの多い内容でした。このワークショップでのメイン教材となったのは同センターで開発したオリジナルのマイコンボード「STEM Du」とプラダン(プラスチックダンボール)です。


このSTEM Duとプラダンとプラグラミングを駆使することでその日の課題に挑戦します。STEM Duはプログラミング学習用のマイコンボードとして最低限の機能を備えているだけなので、性能・機能で比較してしまえば、Arduinoやmicro:bitとは比較できるものではありませんが、これは開発者でワークショップの講師をされた埼玉大学の野村先生の意図するところで、「性能・機能が制限されることで1つの課題をクリアするために様々な工夫が必要」になります。課題のクリアが目的なのではなく、その過程にある試行錯誤こそが非常に重要だということです。その日のワークショップはライントレースカーを仕上げることでしたが、実際に誰一人として同じ形の車、同じプログラムなることはなく、生徒一人一人が工夫しながら問題を解決しようと試みていました。


試行錯誤をひたすら繰り返す生徒たち

床に貼られた黒いテープと床(白っぽい)を識別して車を走らせるにはどうしたらいいか?ロボットをプログラミングしたことのある生徒であれば、マイコンボードに色を識別できるカラーセンサーを新たに接続する必要があると思うかもしれません。しかし、このワークショップではそれは許されてはいません。それではどうするのか?今回はSTEM Duが備えている機能を工夫するしかありません。

ロボットカーをプログラミングによってライントレースさせるのはプログラミング教育における一種の流行です。この流行が思わぬ方向に向かうと「いかに簡単にプログラミングができるか」という思考になり、「ブロックによるプログラミングでこんなに簡単にライントレース カーを作れます!」という製品が誕生してしまいます。これは本末転倒で、そこには学びも何もなく簡単にライントレースカーを「組み立てる」ことができてしまいます。


材料は非常にシンプル。

ライントレースできることが大前提でその先に別な課題がある場合は、ライントレースにハードルを設ける必要はありませんが、ライントレースそのものが学びの中心にある場合、そのハードルを下げることは学習機会の喪失に繋がります。

このワークショップで生徒がの大課題は「ライントレースカーの作成」ですが、その過程にはいくつもの中課題、小課題があります。それは「センサーと床の距離」「プラダンと床の摩擦への対応」「車輪の回転速度(早すぎるとセンサーが対応できない)」「明るさへの対応(部屋が変わった場合、窓際と部屋の奥での違い)」など多岐に渡ります。


ライントレースカーのプログラムをお掃除ロボットに繋いで音声による制御にも挑戦

生徒たちは、機体とプログラミングの調整の試行錯誤を2時間以上続けたところで昼食の時間となりましたが、誰一人として手を止めようとする気配がなく、1時間延長し終えたところでやむなく中断。昼食を挟んでさらに1時間、計4時間以上試行錯誤を繰り返しました。それほどにこの課題だけでも熱中することができるということです。

この学びで培われるのは、いわゆる学科テストでは測りにくい21世紀型スキルで、プログラミング教育、STEAM教育は本来このような前のめりになれる環境が非常に重要で、このワークショップでは、想像力、問題解決能力などの力が自然と培われていきそうです。

深圳市が目指す「Maker教育(創客教育)」は、埼玉大学STEM教育センターの「ものづくり教育」によるSTEM教育と目指す方向性が非常に近いのですが、世界中のプログラミング教育、STEM教育が発展途上であるように、深圳のMaker教育も発展途上です。埼玉大学がその学びを10年以上前から続けているということで、今後、埼玉大学と深圳のSTEM教育のコラボレーションから生まれるSTEM教育の発展に期待できそうです。


未来の宇宙船のようなセンスタイムの展示ブース


ハンディーファンプログラミング&はんだ付けワークショップ

はんだ付けをしたことがない子がほとんど。


前回まではお掃除ロボットをプログラミングするワークショップを開催してきましたが、今回は暑すぎる夏の必須アイテムハンディーファンの基盤を半田付けしてプログラミングしてしまおうということでハンディーファンハックに挑戦しました。講師は今回も日本から来ていただいたOPENFORCEの河野先生。何回か参加している子供達からは「博士」と呼ばれている河野先生。今回も胸元にファンをつけた白衣姿で見た目だけでも子供達を喜ばせてくれます。


1時間もするとはんだ付けもプロ級

なぜか参加者は女子ばかり。ハンディファンはやはり女子アイテムなのか?深圳で女子が半田付けをしている姿はものづくりの新時代の到来を感じさせてくれます!
まずははんだ付けの練習をかねて河野博士の特製のPro Micro(Aruduino)とモータードライバをのせた基板に抵抗、LEDテープ(NeoPixel)を接続して、Ardublockでプログラミングします。LED1つを点灯させるところからスタートして全体を光らせたり、色を変えたりできるようにしました。


Pro Micro(Aruduino)でLEDを光らせる

LEDの点灯ができたところで、次はモーターの制御をします。今回はモーターをボタンスイッチで制御するのではなく、ファンに息を吹きかけファンを回転させることによりモーターを起動します。モーターの回転数(風力)は、その時の息の強さ(モーターの回転数)によって決まるように設定しました。

息を吹きかけるとファンが回り始めること、息の強さで回転数が変わるので、子供達は何度も何度も息を吹きかけて試していました(遊んだ?)。


Ardublockでプログラミング

このプログラミングを終えて基板をハンディーファンの中に収納して完成!
なのですが、基板を収める時にケーブルの長さを考慮せずに触っているとはんだ付けした部分が外れてしまうこと、最後にカバーを無理やり装着することでどこかのケーブルが外れてしまうことなど、初めて分解、ハックした子供達には想定できない難関が待っており、最後の最後は河野博士修理センターがフル稼働するという大変な事態を乗り越えてのワークショップ終了となりました。


カバーを付け直せば完成!だけど・・・。

今回は身近にある機械を分解してプログラミングすることで今までブラックボックスだった物が制御可能、改造可能であることや、深圳では河野博士が作ってくれたよう特注の基板も短時間ではるかに安い価格で作ることができることも実体験として知ることができました。

温度による制御、音による制御も可能ということで、次回のワークショップも楽しみです!河野博士また次回もよろしくお願いします!


深センにおけるSTEM教育の実践 Nanshan School Maker Faire(南山学校創客節)

6歳の子供のプロジェクト

2018年11月17日、深セン市南山区の海上世界文化芸術中心にてNanshan School Maker Faire(南山学校創客節)が開催されました。School Maker Faireというのは、その名の通り学校のMaker Faire(DIYのお祭り)で、生徒たちがSTEM、アート、Make(メイク、創客)などの授業やクラブで作った作品を展示するイベントです。Maker Faire同様、作品を展示するだけではなく、各ブースに製作者や今回の場合は担当教師がいて、製作にまつわる話を聞くことができます。


洪水に備えた土地の活用に関するプロジェクト

今回参加していた学校の多くはPBL(Project Based Learning、項目式学習)を採用しており、担当の先生によると、「STEM」や「Make」という教科が重要なのではなく、PBLでSTEMを学ぶことが大きな意味があると話してくれました。

STEM教育というと、何を思い浮かべるでしょうか。ロボットをプログラミングしたり、Scrachでゲームやアニメーションをプログラミングしたりすることを思い浮かべるのではないでしょうか。

「STEM教育」というバズワードが一人歩きして、STEMのそれぞれの頭文字に当てはまれば、STEM教育と自称して売り出す商品やサービスがあふれかえっているので、「STEM教育」=「プログラミング、ロボティクス」という印象が強くなってきています。

STEM教育とは何かを定義したり、議論したりするつもりはありませんし、その呼称よりの中身が重要なことはいうまでもありませんが、今回の参加校の取り組みを見るとSTEMのイメージが大きく変わる人もいるかと思います。


5歳の生徒のプロジェクト

右の写真は5歳の子供達の作品です。これは石器時代の道具を自然にある物だけで作ろうというプロジェクトで、写真中央下に写っているのは、「たまごの殻の器と植物の茎を利用したストロー」、右下は「貝殻のお皿と植物の茎で作ったスプーン」です。自然にある物だけを使って、自らの手で物を作りあげることで、改良点が多々あることに気づくことができます。それを改良してよりよい物にしていく過程にこそ学びがあります。課題を決定すること、問題を解決すること、チームと協力することなど、ものづくり(Make)をする中での学びは多くの要素を含んでいます。

このように一切コンピュータやロボットに触れることのない学びの中で、社会、理科、技術(工作)、美術などが融合され、教科横断的に学ぶ手法でSTEM、Makeの授業が行われています。

STEM、Makeは、その過程にこそ意義があり、プログラミングはあくまでも手段です。プログラミングを単純に学ばせる必要があるのであれば、それは「プログラミング」の授業や「コンピュータ・サイエンス」の授業を別に設定する必要があります。


micro:bitを使った作品

左の写真の作品を展示していた学校の先生にお話を伺いました。先生はテクノロジー関連の担当の先生ということで、生徒達は週のSTEMなどの授業回数をたずねてみると、その学校の場合は授業は全くないとのことでした。

それではいつ学んで、いつ作品を作ったのかというと、昼休みと放課後の時間を使っての作業とのことでした。授業やクラブということではなく、生徒が何かを作りたいと思ったら、空いている時間に学校の作業スペース(Maker Space)に行き、先生と相談しながらプロジェクトを進めているとのことです。

自らの意思で、学ぶことを決め、時間を設定しています。これは学びというよりも、子供たちの意識としては「学び=遊び」に出来ている点で に理想的な形と言えます。

いくつかの学校が同様の方式で生徒の自主性に任せながら学びの環境を提供していました。中国の教育というと画一的、全体主義的なイメージがあるかもしれませんが、一概にそうとは言い切れません。


会場で行われたワークショップ

「一度決めたことはやり通す」という初志貫徹型の日本に対し、「間違いに気づいたらすぐに改善する」という朝過夕改型の中国は、経済の発展だけではなく、教育の分野でも発展し始めています。

同じ東アジアの中国と日本は教育における親和性は欧米より高い部分もあると思います。STEM教育、プログラミング教育で先行している中国から成功例、失敗例を学び日本のプログラミング必修化に活かせるのではないかと思います。


パスカルアカデミーにてプログラミング教育ロボットPETSに挑戦!

日本のPETSと深センのmbot


このパーツでプログラミングを行う

わかば深圳の「パスカルアカデミー」では、プログラミング学習用ロボットのPETSに挑戦しました。PETSは今週末のMakerfaire Shenzhenにも出品されるプログラミング学習用ロボットで、最近では日本各地でワークショップも開催されています。対象は幼稚園年長から小学校低学年ですが、扱い方次第では大人でも楽しめるロボットです。

パスカルアカデミーは、「数理能力」「言語能力」そして「仮説思考」を伸ばすためのプログラムとして開講しています。科学実験においても事象を観察するだけではなく、思考し、発表する、レポートにまとめる点で、総合的な力をつけていく狙いがあります。

今回はPETSを使って、空間認識力、思考力を高めると同時に、あれこれ周囲の仲間と相談しながら作業を進めるチームワーキング力、コミュニケーション能力を高めるために挑戦してみました。


動きがかわらしいPETS

最近日本でも注目を集めつつあるSTEM教育でも、科学、技術、工学、数学という表面的な技能ではなく、実際のものづくりの現場で必要とされる、チームワーキング力、コミュニケーション能力を重要視しています。

今後も、このパスカルアカデミーや、深セン日本人補習校、若葉幼稚園でのワークショップを計画していますが、ここでの目的は単なる「プログラミング学習」に終わらない、「プログラミング×言語教育」も念頭においたイマージョン教育を目指していきたいと思います。


セミナー開催のご報告「イノベーション都市としての深圳」

SegMakerでのセミナーの様子

10月26日(木)深圳市福田区華強北にあるメイカースペース・コワーギンクスペースのSegMakerにて「イノベーション都市としての深圳」というテーマで東京大学の伊藤亜星先生にご講演いただきました。

今回、伊藤先生には、このセミナーを「お父さん、お母さん」向けに開催していただきました。それは、深圳に住む多くの日本人が深圳に住んでいるにもかかわらず、目の前で何が起こっているのかを理解することができていないことに、私自身が非常に強く危機感を抱いていたからです。


華強北の電気街

今深圳は激動の時代を迎えています。かつて「コピー商品のメッカ」という惨めな呼称を持っていた深圳ですが、今や、「ハードウェアのシリコンバレー」「イノベーションの都」と天地が一変するようにその評価が激変しています。

深圳の技術者たちは、コピー商品を安く大量に生産し続ける過程で、完璧なコピー商品、さらには本物よりも高機能な商品まで作り出せるようになりました。技術者たちは、安価な労働力と高度な技術を武器に、安価で高性能な「オリジナル商品」までも作りだせるようになりました。

今回の会場となった華強北は街全体が電子部品の倉庫のような場所で、パソコンや携帯電話などのハードウェアに使われる部品は全て手に入ります。つまり、「今までにない新しい携帯電話を作りたい」と思い立ったら部品をかき集めて試作品をすぐに組み立てることができる環境が整っています。

華強北に行けば、ハードウェアの試作品を作る部品が全て手に入るので、ハードウェアのスタートアップたちはこぞって深圳に集まるようになります。同時にそこには「アイディア」も集まるようになります。


華強北 賽格広場

そして、そのアイディアを世に送り出すサポートをするインキュベーターやシリコンバレーのアクセラレーターまでもが深圳に進出し、一気に「お金」も集まるようになりました。

アイディアがあれば深圳に行き、部品を集め、試作品を作る。それをアクセラレーターが評価し投資をし、そして、世に商品を送り出す。このようなハードウェア・スタートアップのエコシステムが深圳にできあがったのです。

アイディア1つで深圳に行けば何かができるという「深圳ドリーム」を胸に若者が集まり、平均年齢33歳という若さと活気に溢れ、そして、歴史にしばられた北京や上海とはまったく異なる新しい都市で、「若さ」と「エコシステム」が融合し、テンセント、 Huawei、BYD、DJI、Makeblockなどの企業や、革新的な技術、 イノベーションが生まれ出すと、ついに深圳が「イノベーションの都」と呼ばれるまでに至りました。


SegMakerの3Dプリンター

このようなイノベーションの嵐が吹き荒れる深圳に住む子供達が何も体験せずに過ごしているのはあまりにも大きなチャンスロスであり、逆にこの機会に子供達が1つでも多くの体験をすることができたのであれば、 子供達一人一人の成長という枠を越えて、将来の日本を支える貴重な人材を育てる機会になるのではないかと思っています。

そこで、今回は中国経済、深圳を研究されている伊藤先生の力をお借りし、まずは親御さん方から深圳の現状をご理解いただき、今後の教育に生かしていっていただきたいと思い、このイベントを企画しました。


SegMakerの展示品

今回のセミナーにご参加いただいた方々とは、「今、深圳に住んでいることに非常に大きな価値がある」ということを共有できたと思います。北京でも上海でも東京でもニューヨークでも、そしてシリコンバレーでも世界中のどこでもなく、そして、5年前や5年後でもなく2017年、2018年の深圳にいることに意味があります。

経済が低迷しどこか暗い雰囲気に覆われた日本ではなく、「若さ、生活の楽しみ、働く楽しみ、希望、夢、イノベーション」など明るい雰囲気に覆われた深圳で育った子供達は、普通の日本人が持ち得ないポジディブでクリエイティブな人格形成に大きな影響をもたらすと思います。

しかし、これは子供達が勝手に感じ取るのではなく、我々大人たちが深圳を正しく理解し、子供達に教育として与えていくべきことです。

深圳には日本人が楽しめるような観光地はほとんどありません。その代わりに、MakerFaire Shenzhenような学びの場はそこら中にあります。

イノベーション都市深圳に住む私たちは、ここにある教育資源を最大限に活用して深圳でしかできない教育を追求していけたらと思います。