勉強のことは少し忘れて夜空を眺めてみる
わかば深圳教室のある美年広場から大通りへ出る敷地内の通り道は、真東よりやや南よりの方角に伸びています。私が教室の勤務を終えて帰宅するころには、日本や香港のように灯りが残っておらず、暗闇の中その小道を歩くことになります。普通に顔を上げて歩いていれば自然と東の空の夜空が目に飛び込んできます。
最近は東の空からちょうど上ってくるオリオンの横たわった姿が見られるようになってきました。毎日同じ時刻に見ていてもオリオンは見えても青白く輝くシリウスは見えていませんでしたが、その姿も徐々にみられるようになってきました。
理科の天体の単元では「オリオン座は冬を代表する星座です」と学習します。あるいは「冬にはオリオン座が見られます」と学習するでしょうか。しかし、そんなことは学習しなくても、普段の生活の中でオリオン座が冬の星座であることを周囲の空気とともに脳も体も記憶してくれています。深圳で見るオリオン座であるにもかからず、日本で幾度となく見てきたオリオンの記憶があるせいか、私は体が寒さに震えるような感覚さえ覚えます。
オリオン座を見ると、現実にはない寒さを感じると同時に、「今年も冬がやってきたな」とも思いますが、「あの時もオリオン座が見えていたな」とオリオン座には過去の記憶が結びついています。
遠い記憶ながら一番よく思い出すのは、大学時代を過ごした街を去るその日の朝のことです。徹夜で友人宅で飲み明かした夜明けごろに、ベランダに涼みに出て思いがけず目に入ってきたのはオリオン座でした。それは8月か9月のことだったので、オリオン座が見える季節ではありませんでしたが、夜明け頃に少しだけ見える東の空のオリオンを見ることができました。夏の夜空に思いがけず見ることのできた驚きと、友人との別れを惜しむ気持ちが相まってか、記憶に深く刻み込まれているようです。
近い記憶でいえば、2015年10月31日の香港での土浦日大高校の入試の朝を思い出します。今年は香港日本人中学校前での校門激励に向かうべく、朝の6時に深圳を出発しました。その日の朝、夜の明け始めている空をふと見上げると南の空に月とオリオンが、東の空には金星、火星、木星がめずらしくそろって輝いていました。この日の夜空も生徒たちの顔とともに記憶に刻み込まれるのかもしれません。
香港でも深圳でもオリオン座くらいはかろうじてみることができます。オリオンが見えにくくても冬の大三角はわかります。スマートフォンのアプリを使って画面を星に向ければ星座名や星の名前を重ねてみることもできます。特に中学受験に必要な知識は、日常生活をどれだけ豊かに過ごせているかが重要な鍵となっています。勉強という意識を捨てて、夜の散歩に出かけてみてはいかがでしょうか。